向山裕(MUKOYAMA Yutaka)1984年兵庫県出身。宝塚造形芸術大学絵画コース在学中より個展を開催。
120号の巨大なキャンバスに、実際には指先ほどの小さな生物を精密なタッチでリアルに描き、注目を集めました。
その後、韓国での個展やグループショウ、「高島屋美術水族館」、「美の予感」に出品。2012年、2015年に高島屋各店で個展を開催し、その卓越した技術によって描かれた、どこか愛着を感じさせる作品が多くの反響を呼びました。
描くモチーフは、ウナギ、たこ、ウミホタルなど海洋生物が多く見られます。
気になった生物を入念に調べ、入手できるものは実際に飼育し、その生育を共にします。
体長3mmほどのウミホタルなどは顕微鏡で細部まで観察し描いていきます。それらは標本のようなリアルさで、作家の意思を殆ど感じさせない写実的な手法で描かれますが、何処か空虚な悲哀感と懐かしさにも似た愛着を感じさせます。
また、絵画の他にも巨大サイズのイカの骨や米粒を樹脂で作った立体作品なども制作し新たな領域へ広がりを見せました。
これまで鳥類や昆虫、海景、珍しい海の生物などを数多く描いてきた向山ですが、その興味は自然界とその生命の循環、殆どが短命もしくは一瞬で繰りかえされる美しくも儚い現象の不可思議さにあるようです。緊張感あふれる作品からはそれらの生命体と彼らから届けられる様々なメッセージへの畏敬の念が感じられます。
本展は、新作の油彩を中心に立体作品も含めた約15点発表します。

2024 油彩、キャンバス 910×910mm

2026 油彩、キャンバス 910×910mm

2024 油彩、キャンバス 910×910mm
風のない、生ぬるい夜。
おびただしい家臣どもにぎっちり取り囲まれ、
いま宿営地で夜明けを待っている。
古巣を出たのは三日前。新女王候補たちの羽化を目前にした、暖かい日のことだった。
特に自分を慕うもの達を選って植民者の一群を組織し、あとは新女王に仕えるよう命じて残留させた。
残された城郭と忠良な家臣団があれば、王国の経営に当面さしつかえはなかろうと。
風雨がしのげる桜の枝下を仮宿と定めたのち、偵察に放ったもの達のうち一匹が、
移住にふさわしい土地の発見を報じたのが昨日のこと。
数千の臣に上下左右、幾重にも包み込まれたその中心の暗闇で、物思いに耽る。
深窓の王台では、もの言わぬ継承権者らの蛹の、ぬれぬれと透き通る白い肌に翳が
さしはじめた頃だろうか?
朝の気配がする。
黎明の薄明りにぼんやりと照らし出された宿営地で、群集は
新王国建設の大仕事にふるい立ちさわがしく活動を開始した。
向山裕

